ゲーテ『ファウスト』

人間という、この世の小さな神さまは、昔からずっと同じ性質で、天地創造の日以来、奇妙なことをやっています。いっそあなたがあいつらに天の光の照り返しをおやりにならなかったなら、あいつらも、もう少しましな暮しができたかも知れません。あいつらはその照り返しを理性と呼んで、どんなけだものよりも、もっとけだものらしく振舞うためにその理性を利用しているんです。

人間というものは望んで得たものをしっかりと握ってはいないで、愚かにももっといいものが欲しいと憧れ、一番すばらしい幸福にもすぐ慣れっこになってしまうのです。せっかくの太陽を見棄てて、冷たい露霜をあたためようとする。

この類いない運命を黙って享けていましょう。「在る」ということは義務です、よしそれが瞬時のことであろうとも。

山塊は気高く無言のうちに聳え立っている。どういうふうにして出来たのか、なぜ出来たのかと問おうとは思わない。（略）自然というものは、自分自身の姿をたのしむために、気違いじみた力ずくの荒業は必要としないのだ。

憂い「誰でもわたしにつかまると、その人には全世界が無益のものになります。永遠の闇がかぶさってきて、太陽は登りもしなければ沈みもしない。耳目になんの障りもないのに、心の中には闇が巣食うのです。どんな宝も、わがものとすることができません」