サマセット・モーム『雨・赤毛』

『雨』

「つまりあなたの希望通りにちゃんとやらないということなんでしょう?」博士がひとつ冗談口をたたいてみた。
だが宣教師はニコリともしなかった。
「私のやってもらいたいというのは、正しいことなんです。人に説得されてはじめてするというような性質のもんじゃないと思うんですがねえ」
「しかし何が正しいかということになると、そこはやはり人さまざまというもんでしょうからねえ」
「じゃかりに足に壊疽が出来た人間がいるとしますねえ、切断しておしまいなさいということを、躊躇していえないような人間を、あなたは我慢お出来になれますか?」
「壊疽というのは、こりゃ、厳たる事実の問題ですからねえ」
「じゃ罪悪は?」

『ホノルル』

かしこい旅行者は、空想だけで旅をする。むかし、あるフランス人(といっても、ほんとうはサヴォイ人なのだが)は、「わが室内周遊記」という本を書いた。実は、まだ読んでもいないし、どんなことを書いたものか、それさえ知らないのだが、少なくともこの題名は、私の空想をそそる。こうしたやり方でなら、世界周航だってすぐできるからだ。