三島由紀夫『沈める滝』

『しかし集中ということは、夢中になるということじゃない。問題は持続だ……』

握ろうとしても指のあいだからこぼれ落ちてしまった粉雪が、いつかしらしっとりと潤み、握った指の形を印し、掌の中に堅固な玉になって据っているのを見るのは、子供らしい喜びである。永らく拒んでいたもののこの最初の和解。

洋品店を出ると、今度は映画へ行った。暗くなる。映画がはじまる。女は昇の耳に口を寄せて、私の手を握ってもいいと言った。昇は思うのだが、こうして顕子は、むかしの冷たい気まぐれな不本意な女とちがって、熱心で、一本ちゃんと筋のとおった女になり、持ち前の氷のような媚態も技巧も忘れてしまった。一度沙漠からのがれたからは、そのむこうにもまた沙漠のあることを知らない、処女よりも無垢な女なのである。