尾崎翠『途上にて』

省線の二停車場半。いいつれがあれば歩くにいい道のりです。そして今夜の私に、中世紀氏がいいつれでないとどうして言えるでしょう。この一週間私は部屋のなかでまったくひとりでした。階下のあかんぼの声にせめられながら運動不足をも重ねていますし、そしてこのごろ舌の戦ぎもときどきは必要だと思っているところです。人の顔をみたい時には銭湯に出かけ、会話の代りには歌をうたう一週間を送りました。