室生犀星『性に眼覚める頃』

私はそうした彼女の行為を見たあとは、いつも性欲的な昂奮と発作とが頭に重なりかかって、たとえば、美少年などを酷くいじめたときに起こるような、快い惨虐な場面を見せられるような気がするのであった。それと一しょに、彼女がああした仕事に夢中になっていり最中に飛び出して行って、彼女をじりじりと脅かしながら、そのさくら色をした歯痒いほど美しい頬の蒼ざめるのを傲然と眺めたり、または静かに今彼女のしている事はこの世間では決して許されない事であり、してはならないことであることを忠告して、彼女がこころから贖罪の涙を流して泣き悲しむのを見詰めたりしたら、どんなに快い、痛痒い気持ちになることであろう。そしてまた彼女が悔い改めて自分を慕って、しまいには自分を愛してくれるようになったら、自分はきっと寂しくないにちがいない。そうでなくとも、彼女の弱点につけ込んで、自分はどんな冒涜的なことでもできるのだなどと、私は果てしもない悩ましい妄念にあやつられるのであった。表なれば、きっとこんな時彼女を脅迫してしまうにちがいない。そしてすぐに自由にしてしまうにちがいない。