カフカ『審判』

戦うことを求めたればこそ敗北も喫したのだ。家にとどまっていて、あたりまえの生活をやっていれば、こんな連中の誰にでも優越し、一蹴りで自分の進路から放り出してしまえるのだ。

「初めは行きたがるが、ここが出口だ、と何回でも言ってやればいい。そうすれば動かなくなるよ」

何よりもまず、何か成功をなしとげるためには、自分に罪があるかもしれないという考えをすべて払いのける必要があった。罪などはないのだ。訴訟は大きな仕事以外のものではなく、そういうものを彼はしばしば銀行のためにやって利益をあげてきたのであるが、その内部にはきまってさまざまな危険がひそみ、まずそれを防がねばならないような仕事なのである。このためにはもちろん、何か罪があるなどという考えをもてあそんでいてはならず、自分の利益に関しての考えをできるだけしっかりと保持していなければならない。

「頼まれてこう描かなくちゃならなかったんですが、ほんとうは正義の女神と勝利の女神とをひとつにしたんです」
「どうもあまりうまい取合せじゃありませんね」と、Kは微笑しながら言った。「正義はじっとしていなくちゃいけませんね。そうでないと秤が揺れて、正しい判決ができませんからね」

「君は事実を見誤っているんだ」と、僧は言った。「判決は一時に下るものではなく、手続きがだんだんに判決に移り変ってゆくんだ」

論理は揺るがしがたいが、生きようと欲する人間には、その論理も対抗することはできない。

審判 (新潮文庫)