村上龍『共生虫』

四歳下の妹は短大に通っているが、彼女はまだ処女ではないかとウエハラは思っている。顔も背格好もファッションも地味だし、異性に積極的ではない人間に特有の、不潔さがある。

植物や魚の名前が大声で叫ばれるたびに彼らは一斉に笑った。彼らはできるだけ大勢の人に自分たちの笑い声を聞かせようとしているようだった。ウエハラが三歩進むたびに、ビニールシートに輪になって座っている連中が植物か魚の名前を叫び、笑い声が起きた。ひとかたまりになった笑い声が起きるたびに、吹き出物の斑点を構成する彼らが、さらに大きく膨れ上がるのがウエハラにはわかった。

笑いが緊張を解いてしまうということをウエハラは知らなかった。小さい頃からめったに笑うことがなかったし、両親もほとんど笑わない人間だったので、笑いについて知ることができなかった。家の中では誰も笑わなかったが、たとえば近所の中華料理屋などに行くと、兄が中心になって家族は急に喋ったり笑ったりした。

共生虫

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