ドストエフスキー『白夜』

すばらしい夜であった。それは、愛する読者諸君よ、まさにわれらが青春の日にのみありうるような夜であった。一面に星をちりばめた、明るい星空は、それを振り仰ぐと思わず自分の胸にこんな疑問を投げかけずにはいられないほどだった――こんな美しい空の下に、さまざまな怒りっぽい人や、気紛れな人間がはたして住んでいられるものだろうか?これもやはり、愛する読者諸君よ、幼稚な、きわめて幼稚な疑問である。しかし私は神が諸君の胸にこうした疑問をよりしばしば喚起することを希望する!……。

それにしても喜びと幸福は、なんと人間を美しくするものだろう!愛にハートを沸きたたせるものだろう!自分のハートにあるものをそのままひとのハートに移せたら、と思う、なにもかも楽しくあれ、喜びに笑み輝けという気がする。そしてその喜びはなんと感染しやすいものだろう!昨夜の彼女の言葉にはどれほどのやさしさが秘められ、その胸には私に対するどれほどの好意があふれていたことか……。どんなに私をいたわり、私に甘え、どんなに私を元気づけ、私の心をもみほぐしてくれたことか!ああ、幸福感が生みだす媚態のかずかず!それなのに私は……。すべてを額面通りに受け取って、彼女は私を……などと思っていたのだ。

そうだ、われわれは自分が不幸なときには、他人の不幸をより強く感じるものなのだ。感情が割れずに、かえって集中するのなのである……。

白夜 (角川文庫クラシックス)

白夜 (角川文庫クラシックス)