オールコット『若草物語』

一同が歓迎したのは、小ぶとりのした、「何かしてあげましょうか」というようないかにも親しみ深い表情をもった優しい母性型の婦人であった。決して美人というほどではないが、母親というものは、子供たちの目にはいつも美しく映るものである。娘たちは、ねずみ色のオーバーを着て流行遅れの帽子をかぶっているその婦人を、世界一のすばらしい女性だと思っている。

ジョーは、それがこの世における最善の生涯をかいた昔ながらの美しい物語すなわち聖書であることを知っていた。そして長い旅をする者にとって、これこそまことの案内書であると思った。

まことに愛は恐怖をしりぞけ、感恩は誇りを征服するものである。

「教養というものは謙そんがともなうと、態度や言葉に自然と現れ、感じられるものですから、少しも見せびらかす必要はないのです」と母がいった。
「その通りよ。あなたが持っているだけのリボンや帽子やきものを一度に身につけたら変てこなのと同じだわよ」
とジョーがいい足したので、そのお説教はにぎやかな笑いのうちに終わった。

ハンナが第一に気力を取りもどした。そして無意識の知恵を表して一同によい手本を示した。それは彼女にとって働くということが、大概の苦悩をいやす万能薬だということであった。
「神さまが旦那さまをお守りくだせえますよ。わたしゃ泣いて暇つぶしなんかしていないで、すぐさまお荷物の用意をいたしますですよ」

「わたしもそうなんです。わたしは王さまの全軍をもって攻めて来たって動きはしませんけれども、親切な言葉にはすぐに参ってしまうんです」

「あなたの気持ちが、おいおいに変わることを希望することはできないでしょうか。あなたが充分にお考えになるまで、わたしは何もいわずに待ちます。どうかわたしをもてあそばないで下さい。あなたがそういうことをなさる方だとは考えられません」
「わたしのことなど、何もお考えにならないで下さい。わたし、その方がよろしいんですの」
メグは恋人に気をもませて、自分に相手を左右する力がどれ程あるかをためしてみるという、悪趣味の快感を味わっていた。