浅田次郎選『翳りゆく時間』

山田詠美『天国の右の手』

淳士は眼鏡を外して目頭を指で押さえた。
「目が疲れた。外国に来ると色彩が多過ぎるように感じるよ」
「それがほんとなのよ。東京では誰もが色弱になるわ」
「そうでもないよ。きみが、ぼくの視界に飛び込んで来ると、いつもこんなふうに感じる」