シドニィ・シェルダン『私は別人』

「コミックとコメディアンはどう違うのですか」
「大きな違いがあるよ。コミックはこっけいなドアを開き、コメディアンはドアをこっけいに開ける」

彼はすぐれた審美眼と、観客がほしがっているものをかぎつける感覚を備えていた。彼はへたな演技をよくすることはできなかったが、それをよく見せることはできた。そして、もし彼がりっぱな演技者を与えられたら、それを大評判にすることができた。

「よし、まあいいだろう。きみはダンサーにはなれそうもないけど、それらしく見えるようにしてやろう」
「なぜそんなことを?」と、トビーは訊いた。「歌ったり踊ったりする男はざらにいるじゃないですか」
「コメディアンだってそうさ」と、ランドリーは言い返した。「ぼくはきみをエンターテイナーに仕立て上げようとしてるんだよ」

「おれがほしかったのは仕事だ。きみはおれを、死ぬまで落伍者にしておこうとしてきた。このたわけ野郎め、そんなことをしたきみを、おれは絶対に許さんぞ」
ダラス・パークが警備員に連れ去られて行った後、サムは長い間そこに坐ったまま、ダラスの作った数々のすばらしい映画や、彼の果たした偉大な役割を思い出しながら、考えふけっていた。ほかの事業ならば、彼は英雄になり、取締役会の会長になるか、あるいは高額の年金と名誉を与えられて引退していただろう。
しかし、ここはショウ・ビジネスのすばらしい世界なのだ。

小さな来客室で、トビーは父親と二人だけになった。その部屋さえも死の匂いがした。しかし、それが――死が――このホームの存在理由なのではなかろうかと、トビーは思った。ここは死への途上にある、役に立たなくなった母親や父親が満ちあふれていた。彼らは来客があるたびに邪魔者になっていた自宅の裏側の、小さな寝室や食堂や客間から、彼らの子供かめいかおいに追い出されて、この老人ホームへ送られたのだ。ほんとの話、それはなた自身のためにいいんですよ、お父さん、お母さん、ジョージ叔父さん、ベス叔母さん。あなたと同じ年代のとても親切で愉快な大勢の人たちといっしょに暮らせるのですからね。いつでも話し相手がいるでしょうしね。わたしが何をいおうとしているのか、わかるでしょ?しかし、彼らがほんとにいいたいことは――わたしはあなたがほかの役に立たない老人たちといっしょに、そこで死んでもらうためにあなたを送ろうとしているんだ。わたしはあなたが食卓についてよだれを流したり、同じ話を何度もしゃべったり、子供たちを悩ませたり、あなたのベッドを濡らしたりすることに、もうすっかりうんざりさせられているのよ……。エスキモーはその点についてはもっと正直だ。彼らは老人たちを遠くへ運んで、氷の上に捨ててくる。