谷崎潤一郎『魔術師』

浅草の公園を、鼻持ちのならない俗悪な場所だと感ずる人に、あの国の公園を見せたなら果して何と云うであろう。其処には俗悪以上の野蛮と不潔と潰敗とが、溝の下水の澱んだように堆積して、昼は熱帯の白日の下に、夜は煌々たる燈火の光に、恥ずる色なく発き曝され、絶えず蒸し蒸しと悪臭を醗酵させているのでした。けれども、支那料理の皮蛋の旨さを解する人は、暗緑色に腐り壊れた鶩の卵の、胸をむかむかさせるような異様な匂を掘り返しつつ、中に含まれた芳鬱な握味に舌を鳴らすということです。私が初めてあの公園へ這入った時にも、ちょうどそれと同じような、薄気味の悪い面白さに襲われました。