吉本ばなな『うたかた/サンクチュアリ』

『うたかた』

――さゆりの目を通して出会う嵐は、私の初めて見る嵐で、瞬間私はまた彼に恋をする。失望も欲望も、あらゆる角度から彼をくり返し発見して、くり返し恋をする。そして、こういう恋はもう後戻りできないことを、くり返し知る。

サンクチュアリ

馨はなかなか泣き止まなかったが、人前でも、外でも、相手が女でも少しも不快ではなかった。馨の涙はただひたむきに泣く心だった。誰かになんとかしてという不純物がない、まっさらの泣き方だったので、肩も抱かずに待っていてよかった。