志村貴子『放浪息子13巻』

asaibomb2012-05-27

ぼくたちの、わずらい。13巻分からビーム買ってなかったのでかなり新鮮な気持ちで読める一冊だった。正直ここまでの流れで連載追うほどの勢いを失った観あったのだが、さすがにまとめて読むと充実してた。話はもちろん背景含めた絵も密度高かった気する。というのは目が同人に慣れてるからか?(ひどい言い草)。あと体育着とか肌を出したシーンではシュウ君もマコちゃんも高槻さん千葉さんみんな体のラインが筋っぽく大人の体への成長が描かれているのがわかる。
一番よかったシーンは安那ちゃんの「ヘンなの」かな。一般的に「ヘン」とされるであろう状態への反応としてこの感情で言葉で表情、そしてそれに対するシュウ君の対応。ここに限らず安那ちゃんがどんどん魅力的になっている。次点として真穂ねーさんにやらしーとこ見付かって「麻衣子ちゃんにチクる!」「やめろ!」もいい。「誰と長電話してたんだよーー」とか「その代わり取材させろってぜったい言われるよーー」辺りも表情めちゃめちゃいい。
全体としては新しいキャラが唐突だったり作中アニメからセリフ引いたり脈絡なく好きだの嫌いだのの話になりがちで若干スマートさに欠ける感じも受けたんだけど、逆に安那ちゃんなんかは4巻からじわじわキャラよくなってきてシュウ君と付き合う流れにもようやく納得いった気もする。結果を示してから理由を後付けしていく……演繹的?違うか(よくわからずてきとうなこと言おうとしてしまった)。そういう意味では佐々ちゃんなんかはさすがに言動スムーズだった感じ。
巻末にはいけだたかしイシデ電オガツカヅオのゲスト3名。今回もオガツカヅオさんの漫画がよかったなあ。
それから、アニメイトで特典ペーパーも無事ゲット。12巻時に続いて宇都宮店でも扱ってくれて助かった。描き下ろし漫画でアニメイトという店舗を扱いつつ更科さんが寝込むという本編のネタも織り込む上手さ。

放浪息子 13 (ビームコミックス)

放浪息子 13 (ビームコミックス)

シェイクスピア『オセロ』

イアーゴー わが詩の女神、いよいよ産気づかれましたぞ、それ、生れた、これ、このとおり。
 色が白うて賢うて
 器量がようて智慧あって
 器量で売れてそのうえで
 智慧で器量を高く売る
デズデモーナ それだけ褒めていただけば、冥利につきます!それなら、もし色が黒くて賢ければ?
イアーゴー
 色は黒いが賢くて
 ここぞと智慧を働かせ
 孫子の代に望みかけ
 白い亭主を手に入れる
デズデモーナ だんだん悪くなる。
エミリア それなら、色が白くて馬鹿だったら?
イアーゴー
 色が白うて器量よし
 そういう女に馬鹿はなし
 馬鹿をみたとて損はなし
 腹におみやげ仕込んでる
デズデモーナ どれもこれも飲み屋でお馬鹿さんたちを笑わせる、たわいのない古い駄洒落ね。それなら、色が黒くて馬鹿な女には、どんな讃辞を呈するつもり?
イアーゴー
 色は黒うて馬鹿なれど
 才女美人も顔負けの
 男で入りは恋の玄人
 苦労も楽し恋の道
デズデモーナ まあ、ますます訳が解らなくなってきた!悪くなるほど褒めるのね。そうなると、申し分のない女はどう褒めたらいいのかしら――どんなに悪意をもっていても、つい褒めてしまわずにはいられないような、一点の非の打ち所のない人は?
イアーゴー
 器量がよいのは鼻にもかけず
 きける口でもむだにはきかず
 金があるのにうお洒落はせず
 ままになる身で欲には走らず
 返せる恨みに立つ腹立てず
 じっとこらえて涙を見せず
 才女なれども亭主をなめず
 鰯ほしさに鯛をば捨てず
 深き考え表に出さず
 騒ぐ男に目もくれない
 そういう女に会ってみたい
 そういう女に似合うのは――
デズデモーナ どんなことかしら?
イアーゴー
 うるさい餓鬼をふところに
 出入り帳と首引き

イアーゴー 人間、誰しも見かけどおりのものであるべきはず、そうでない奴がいるとしたら、それなら、そういつはそうでないように見えてもらいたいものです!
オセロー 言うまでもない、人間、誰しも見かけどおりのものであるべきだ。
イアーゴー それでしたら、キャシオーは誠実な男だと思います。
オセロー 止めろ、まだ何かあるな。よいから、思うままを、自分自身に語りかけるつもりで話してくれ、遠慮は要らぬ、この上もない忌まわしいことを、この上もない忌まわしい言葉で語ってのけるがよい。
イアーゴー 将軍、それはお許しいただきとうございます。これが職務上の御命令なら、どのようなことであろうと、必ずお言葉に随いましょう。しかし、奴隷すら許されている自由を捨てるわけにはまいりませぬ。胸中の考えを語れとおっしゃる!が、その考えが邪であり偽りであったとしたら――早い話が、たとえ宮殿といえども、時に穢らわしいものが入りこまずにはすみますまい?いかに高潔な心情の持主とはいえ、その胸のうちに卑しい邪念が忍びこみ、正義と共に坐して裁きの庭を左右するときがないとは申せますまい?

イアーゴー 将軍、恐ろしいのは嫉妬です。それは目なじりを緑の炎に燃えあがらせた怪獣だ、人の心を餌食とし、それを苦しめ弄ぶのです。たとえ妻を寝とられても、すべてを運命と諦め、裏切った女に未練を残さぬ男は、むしろ仕合わせと言うべきでほう。しかし、これほど辛いことはありますまい、愛して、なお信じえず、疑って、しかも愛着する、そういう日々を一刻一刻かぞえながら生きねばならぬとしたら!

オセロー おれはだまされた。おれの救いはあの女はあの女を憎むことにしかない。ああ、呪われるがいい、結婚などというものは、好きな女を自分のものにしておきながら、その心はどうにもならぬのだ!むしろひき蛙にでもなって、地下の穴蔵の湿気でも吸っていたほうがまだましだ、愛する者を人の自由にさせて、自分はそのお余りを頂戴しているいよりはな。

オセロー おお、あの下司野郎め、いっそ千万の命をもっていてくれればいい!一つでは足りぬ、一つではこの怨みをどうして霽しえようぞ。もう解った、事実なのだ。見ろ、イアーゴー、これ、このとおり、このおれの愚かな愛を、最後の一かけらに至るまで宙に吹きとばしてしまうのだ――それ、もう空っぽだ。立て、どす黒き復讐の鬼、地獄の洞窟から姿を現せ!退け、愛の女神、貴様の王冠でもあり玉座でもあったおれの心を、暴戻飽くなき憎悪の手に譲り渡してしまえ!このおれの胸を毒蛇に噛ませ、その憎しみの毒をもって腫れあがらせるがいい!

エミリア でも、嫉きもちやきなら、覚えがないだけでは安心いたしませぬ、何かあるから嫉くのではない、嫉かずにはいられないから嫉くだけのこと、嫉妬というものはみずから孕んで、みずから生れ落ちる化物なのでございますもの。