マリオ・プーゾ『ファミリー』

その夜、ひとり、またひとりと枢機卿が部屋を離れ、こっそりほかの枢機卿の部屋にはいっていった。再交渉が始まった。聖なる財産と地位に関する取り引きが改めておこなわれた。誓約が交わされた。一票のために、魅力的な富が、地位が、機会が約束された。まったく新しい忠誠が誓われた。しかし人の心は移ろいやすい。そのせいで困難が生じる。魂をひとりの悪魔に売ることができるなら、ほかの悪魔にも売れないはずはないからだ。

チェーザレは屈んで彼女にキスをした。優しいキス、兄が妹にするキス……からだのある部分が固く、冷たくなった。彼女なしでこれからどうすればいいのか。この夜まで、愛と言えば彼女のことを思った。神と言えば彼女のことを思った。これから、戦いと言えば彼女のことを思うのではないか。それが怖かった。