アゴタ・クリストフ『悪童日記』

「お前たちにも分かったようじゃな。宿と飯にありつくには、それだけのことをしなくちゃならん」
ぼくらは言う。
「そういうわけじゃないよ。仕事は辛いけれど、誰かが働いているのを何もしないで見ているのは、もっと辛いんだ。ことに、その働いている人が年寄りだとね」
おばあちゃんは薄笑いを浮かべる。
「牝犬の子め!お前たち、わしに同情したって言いたいのかい?」
「違うよ、おばあちゃん。ぼくらはただ、自分自身を恥ずかしく思ったんだ」

「どうお礼すべきかも分からない。きみたちのことは、けっして忘れないよ」
彼の目が涙で潤む。
ぼくらは言う。
「あのね、泣いても何にもならないよ。ぼくらは絶対に泣かないんだ。まだ一人前でないぼくらでさえ、そうなんだよ。あなたは立派な大人の男じゃないか……」
彼はぼくらに向かって、笑みをつくる。
「きみたちの言うとおりだ。ごめんよ、もう泣かないから。涙なんか見せちまったのは、ただもう疲れ果てていたせいなんだ」

「あなたたち、感じやすすぎるわよ。この際あなたたちにとって一番いのわね、さっき見たものなんか忘れちゃうことよ」
「ぼくらは、どんなことも絶対に忘れないよ」