横光利一『鳥』

まことに過去一世紀の間に現われた新学説の興亡を私が思い出しても、個人の力の限界の小ささを感ぜざるを得ないのだ。一世を風靡した凡水論の主唱者エルナーを顛覆させた凡火論、その凡火論の主唱者ハットンを顛覆させた災異説、その災異説の主唱者セジイックを破った斉一説のライエルと、そうしてそれらの総てを綜合した進化説のダーウィンを思えば、私は一個人が他個に敗北することはそれは敗北することではなくして神への奉仕に思えてならないのだ。もしそれが敗北なら、勝ったものは必ず誰かに負けねばならぬ。