ヘルマン・ヘッセ『ヘッセ詩集』

「告白」
私の友だちは、だれか?――
大洋の上空にまよった渡り鳥、
難破した船乗り、羊飼いのいない羊の群れ、
夜、夢、ふるさとを持たぬ風など。

私があとにして来た道ばたに、
こわれた寺院や、荒れ放題で
夏のように茂った蒸し暑い愛の庭がある。
しおれた愛の身振りの女たちがいる。
八重の潮路がある。

それらは声もなく、跡もなく横たわっている。
沈んでしまったものを、だれも知らない。
王冠も、栄華の時も、
キヅタにからまれた友のひたいも。

それらは私の歌に揺られて横たわり、
夜ごと私の夢の中に青ざめた姿をほのかにあらわす、
私のやせた右手がせわしく
鉛筆で私の命をかきまわすと。

私はついぞ目標に達したことがない。
私のこぶしはついぞ敵を圧倒したことがない。
私の心はついぞ満ちたりた幸福を味わったことがない。

「運命の日」
夜が白んで陰気な日が来ると、
世界は冷たく敵意のある目つきをしている。
君の確信は、内気に、
自分をたよるよりほかにないのに気づく。

しかし、以前の喜びの国を追われて、
自分の心の中に帰ると、
君の信念が新しい楽園に
向いているのを知る。

君にとって縁のない敵だと思われていたものが、
君の固有なものであるのを悟る。
新しい名で君は君の運命を呼び、
それを甘受する。

君をおしつぶそうとしたものが、
親しみを見せ、精神を呼吸し、
導き手となり、使者となって、
君をだんだん高くへ導く。
ロマン・ロランにささげる)

「雨」
なまぬるい雨が、夏の雨が、
茂みから、木立ちから、さらさらと落ちる。
また重ねてたんのうするまで夢みるのは
おお、なんと快く、恵まれたことだろう。

私は非常に長い間、外の明るい世界にいた。
どよめくような世の営みには私はなずまない。
よそのどちらにも引き寄せられないで、
私は自分の心の中に住んでいたい。

私は何もほしくない、何も望まない。
低く子どもの調べを口ずさんで、
われから不思議な気持ちを抱きながら、
夢のあたたかい美しい世界に帰る。

心よ、おまえはなんと傷ついていることだろう。
しかも、なんと幸福なことだろう、目をつぶったまま
模索し、思うことも知ることもせず、
ただ
感じるのは!ただ感じるのは!