ショーロホフ『人間の運命』

仕事から疲れて帰って来る、時によると、鬼みてえに意地悪い気持ちで帰って来る。ところが、あれは俺が乱暴なことをいっても、決して乱暴な返事なんかしやしなかった。優しく、静かで、一生懸命ひとを楽に落ち着かせようとしてさ、少ない金でうまいものを食べさせようと心を砕いたもんだ。あれを見てると、ほっとした気持になって、しばらくたつと、あれを抱いて、『可愛いイリーンカ、悪態ついたが、堪忍しておくれ。実はな、卿が死後とがうまく行かなかったんだ』という。すると、二人は仲直りして、俺は心が落ちついて来るんだ。これが仕事のためにどういうことかってことは、お前さんにも分かるだろう?翌る朝、俺はすっかり元気になって床から起き出して、工場へ行く。すると、どんな仕事でも、どんどんはかどるのさ!生涯つれ添う利口な女房を持つってこたあ、こういうことなんだよ。

捕虜生活で体験したことを、思いだすのも辛いが、話すのはもっと辛いこったよ。ドイツで受けた非人間的な苦しみを思いだし、収容所で責め殺された仲間たちみんなを思い出すと、――心臓はーー胸の中じゃあなく、喉元であばれるんで、息をするのが苦しくなってくる……