村上春樹『神の子どもたちはみな踊る』

『蜂蜜パイ』

少なくとももう迷う必要はないんだ、と淳平は思った。決断は既になされたのだ。たとえその決断をしたのが彼以外の人間であったにせよ。

「これは取引なんかじゃない」と高槻は言った。「ディセンシーとも関係ない。お前は小夜子のことが好きなんだろう。それから沙羅のことだって好きなんだろう。違うのか?それがいちばん大事なことじゃないか。たぶんお前にはお前のややこしい流儀みたいなのがあるんだろう。それはわかるよ。俺の目には、ズボンをはいたままパンツを脱ごうとしているようにしか見えないけどね」