島田雅彦『カプセルの中の桃太郎』

クルシマは十二歳の時から、原始彫刻の逞しく、美しい性器に憧れを抱いていた。重く、黒光りのする、堅い、天を挑発的に睨む、ゲバ棒のような性器は全能の神に強力なコネを持っているかの如く、不敵な笑いをたたえていた。

クルシマ、イノナカは浅草にいれば、調和するはずだった。ごった煮に入れてはいけないものなど、多くはない。

「おまえ、恋をすればいいと思うんだが……。早く家庭的幸福にひたった方がいいんじゃないか。おっぱいの大きな女と……。恋をしてしまえば、体制も権力もどこかに隠れて、あるいはおまえの味方になるんじゃないのか。性欲はおまえの行動のエネルギーになったよな。でも……性欲は膣に吸いとってもらうようにできてるんだ。政治運動めいたものは机の上でやってればいいじゃないか。体制に対して『イヤ』といえればいいと思うよ。家庭にいる小市民一人一人が『イヤ』っていえば体制はひっくり返るんだぜ。おまえは家庭に入って、革命を起こすべきだよ。母性あふれる女を見つけて優しく愛撫してもらって……。そうなると、おまえペニスを鍛えなくちゃな。途中でしぼんだらまずいからな」